ホーウィン社のシェルコードバンは世界で最も多くのファンを持つ、創業110年以上の老舗タンナー(タンナーとは革を鞣す会社のこと)です。
アメリカのイリノイ州シカゴに1842年にウクライナから移住してきたイシドール・ホーウィンさんが創業者です。
Horween Leather CompanyのHPより引用
コードバンが好きな人にとってホーウィン社のシェルコードバンは特別な存在です。
僕自身もこのコードバンに魅了された者のひとりで、
原皮まで購入してしまったほどシェルコードバンが好きです。
ホーウィン社のシェルコードバンの財布はなぜ、
こんなに魅力的なんでしょうか。
コードバン好きの感性を刺激する独特の質感、美しいツヤ、カッコいい刻印、所有欲を満たすブランド力。
このようにシェルコードバンには多くの魅力があるのですが、
この記事では、ホーウィン社のシェルコードバン財布を複数購入した僕自身が、実際に見て、触って、使って、感じたことを徹底検証して深掘りします。
この記事を読んだ方がシェルコードバンで作られた財布の魅力を深い部分まで感じていただければ、シェルコードバンに魅了された者としてとても嬉しく思います。
この記事では、ホーウィン社のシェルコードバンをレビューしていますが、筆者が古くから愛用しているGANZOのコードバン財布もおすすめです。GANZOについては「コードバン財布の魅力を味わうならGANZO!こだわりの品質を徹底レビュー」をご参照ください。
※ここ数年コードバンは年々価格が上昇しています。
特にホーウィン社のシェルコードバンは2018年ごろからだとおよそ30%以上の上昇で、
それ以降も値上がり傾向は変わりません。2024年も6月前後からの値上げの情報もあります。
購入を検討されている場合は、早めに購入することをおすすめします。
GANZOが仕立てたホーウィン社のシェルコードバンの魅力
世界にほぼ2つのコードバン鞣しを行う2つの企業があります。
1つは日本の兵庫県姫路市にある新喜皮革。
そして、もう一つが米国イリノイ州シカゴにあるホーウィン社(英名 Horween Leather Company)です。
僕は2015年くらいにGANZOの新喜皮革✖️レーデルオガワのアニリン染めの長財布を購入してからコードバンの世界にハマったのですが、
長い間ホーウィン社のシェルコードバンにはまったく興味がありませんでした。
理由は、
ホーウィン社のシェルコードバンを実際に触れもせず、先入観と偏見で勝手に品質が劣ると思い込んでいたからです。
当初はブランド力で価格が高いだけのコードバンと思い込んでました
僕の過去の勝手な考えですが、
具体的にお伝えすると、
- アメリカ製だからどうせ雑な作りだろうという偏見があった
- シェルコードバンはネットでの情報は多いものの、メーカーもサイトやブログも「シェルコードバンを売りたいためのステマだろう」と邪推していた
- ネットの写真だけではシェルコードバンの魅力がわからなかった
- シェルコードバンは高級品で見かけることが少なく、実際に手にとって感じる機会が少なかった
これらの理由がありました。
しかし、
実は以前から実際はどんなものか自分自身で確認したかったので、
大阪にGANZO直営店があることがわかり、直接お店に伺うことにしました。
そして、
GANZO製のシェルコードバン財布や名刺入れに触れたことで、
ホーウィン社製シェルコードバンへの偏見は一気に崩壊し、
一番価格が低く購入しやすかった下の写真の名刺入れをその場で購入して、
さらにその魅力の虜(とりこ)になりました。
この経験からホーウィン社のシェルコードバンの魅力は、実際に手にとってみないと実感することが難しいと思っています。
それ以来、シェルコードバンの魅力にハマってしまった今、
僕の手元には1枚の原皮と3つのホーウィン社のシェルコードバン製品があります。
この四つのシェルコードバンを見て、触れて、使って、感じて、今回しっかりとその魅力を深掘りできると確信するに至ったのでこの記事を書くことにしました。
普通に考えてみれば、
世界的なコードバンタンナー、ホーウィン社が作るコードバンが雑で品質が劣るわけがありません。
「何事も自分で経験しないと真実はわからないもの」と痛感しました。
ホーウィン社のシェルコードバン財布 10の魅力
ホーウィン社シェルコードバン財布 10の魅力
それでは、ホーウィン社シェルコードバン財布の魅力を実際に購入し、
見て、使って感じた僕の体験を交えながらお伝えします。
シェルコードバンへの僕の思いがかなり影響してますが、参考にしていただければ嬉しいです
①コードバン好きをとりこにする独特の魅力
②美しい光沢
③心地よい柔らかさ
④古き良きアメリカがここにある
⑤ひとつとして同じものがない強い個性
⑥シェルコードバン独特の香り
⑦シワになりにくく、型崩れしにくい強靭さ
⑧驚きの自己修復力
⑨革を育てる楽しさ
⑩本物を所有する高揚感
日本ではホーウィン社のシェルコードバンは個性的でワイルドな魅力があると思う人が多いようです
①コードバン好きを虜(とりこ)にする独特の魅力
GANZO製コードバン長財布を見てみる
コードバン好きをとりこにする独特の魅力。
ホーウィン社のシェルコードバンの質感や美しさは特筆すべきものがあります。
シェルコードバンは、馬のお尻の部分から取れる皮革で、
その表面にはピンホールと呼ばれる小さな穴がありながらも、独特の光沢感があります。
この光沢は他の革製品にはないもので、
コードバン好きの感性を刺激する美しさを持っています。
また、シェルコードバンはオイルコードバンになるので購入直後から柔らかく、折り曲げにも強く、非常に丈夫で長持ちするため、財布としての機能を十分に果たす原材料です。
シェルコードバンで作られた二つの財布と名刺入れを購入してみてわかったことは
「同じ原皮のコードバンを使っても、鞣しと仕上げ、染色が違うと、新喜皮革とこれほどまでに個性の違いが出るのか」ということ。
ネットでは以下のレビューをよく見かけます。
- 「新喜皮革とホーウィン社はコードバンに対する考え方が違うので優劣はつけられない」
- 「個性が違うので比較できない」
- 「新喜皮革が白鳥で、ホーウィン社シェルコードバンが鷲」
- 「ホーウィン社のシェルコードバンは仕上げがワイルド」
しかし、実際に僕自身が購入して実感するまで以前の僕は「大人の事情でそんなことを言ってるだけで、
ホーウィン社はアメリカ製なので仕上げが荒くて品質が落ちるのだろうな」
と考えていました。
僕を含めて昭和世代は、アメリカ製は雑な作りのものが多いという先入観を持つ人が多いようです
ところが実物を手にして、毎日触れ、使っている今、その考えは完全に崩壊し、
シェルコードバンのとりこになってしまいました。
シェルコードバンの魅力は本当に独特なものですが、いろんな魅力が合わさって総合的に醸し出されているように思っています。
存在感、重厚感で選ぶならキプリスのシェルコードバンが最強
僕は今のところ、GANZOのシェルコードバンしか所有してませんが、先日キプリス大阪店にお邪魔して、
キプリスのホーウィン社のシェルコードバンを実際に手に取って拝見してきました。
その結果として感じたことは存在感、重厚感を重視する人にはキプリスのシェルコードバンが最強です。
財布に「最強」と言う表現は少し違和感を感じる方もおられるかもしれませんが、
それほどキプリスのシェルコードバン長財布から迫力を感じました。
重厚感をお望みならキプリス製のシェルコードバンが頭一つ抜き出てます
その後、ココマイスターの大阪店でも同じホーウィン社のシェルコードバンの長財布を拝見してきましたが、
キプリスのシェルコードバン長財布が最も重厚感があるという印象は変わりませんでした。
ココマイスターは店内の写真撮影は禁止ですので、自分で購入するか、公式サイトからの引用しか画像を掲載することができません。僕はココマイスターのシェルコードバンは所有しておりませんので、ココマイスターのHPからの引用画像でご容赦ください。
さて、
大丸大阪心斎橋店に唯一のキプリス直営店があり、実店舗で実物の動画を撮影させていただいたのでご覧ください。
キプリスとGANZOのシェルコードバン長財布の相違点は
①キプリスの方が価格が40,700円(2024.3.22現在)も高い
②キプリスは通しマチ、GANZOはササマチ
③コバ処理の技法が違う
④ホーウィン社がいう#8(GANZOではバーガンディー 紫と茶色の間の色)はキプリスではダークブラウンと称する
⑤ホーウィン社の刻印がキプリスとGANZOではデザインが異なる
現物を触らせていただきながら、
店長様に以前から疑問に感じていたことを質問してみました。
それは、
①の「なぜGANZOさんのシェルコードバンよりも40,700円も高いのか?」ということです。
僕からの質問
「キプリスさんは自社工房をもち、さまざまな企業努力で他のメーカーさんよりも全般的にリーズナブルな価格になっているように感じているのですが、キプリスさんのシェルコードバン長財布だけはなぜ40,700円も高いのですか?」
店長さんからの回答
「シェルコードバンの使用量が多いからだと思います。シェルコードバンの使用量が多いとそれだけ価格が高くなります。」とのことでした。
僕が現物を確認したところ、GANZOのシェルコードバンと大きさはほぼ同じです。
しかしキプリスのシェルコードバンは、確かに内側のカード入れの部分もほとんどがその色のシェルコードバンを使用していました。
実際に見て触れてみましたが、GANZOやココマイスターのシェルコードバンよりキプリスのシェルコードバンの重厚感が秀逸です
キプリスの公式HPには裏地に豚革との記載がありますが、どこが豚革なのかわからないほど多くのシェルコードバンが使われています。
GANZOもほぼシェルコードバンだけですが、GANZOの公式HPにも記載してある通り、下の写真の通り内側の裏面は一部牛革ヌメが使用されています。
キプリスのシェルコードバンの長財布は下の写真の通り、通しマチなのでコバが3カ所になり、
より多くの革素材が必要になるのでさらに重厚感が出ます。
通しマチとササマチについて
通しマチとササマチについて説明します。
まず「マチ」とは、袋や財布の底の部分のことで、いくつかの種類があり、
主に通しマチ、ササマチ、風琴マチ(マチがいくつも重なったものです)に分けられます。
ここでは通しマチとササマチについて説明させていただきます。
通しマチは底に札やカードが入るスペース部分があり、お札やカードが多く保管できるマチです。
デメリットは作るのに多めの材料と手間と技術が必要で難易度が高いです。
- お札やカードが多く保管できる
- 多くの材料と手間と技術が必要
ササマチは底の平な部分がないマチのことで、少ない材料で、作りやすいマチです。デメリットは通しマチに比べて収納力に劣ります。
- 少ない材料で、作りやすいマチ
- 通しマチに比べて収納力に劣る
②美しい光
上はGANZOのシェルコードバン2の黒の長財布ですが、
しばらくの間日常使いしただけで、乾拭きもしておらず、スッピンでこの輝きです。
今後は乾拭きと日常使いで表面のコラーゲン繊維が寝て、さらに美しく輝きが増します。
アニリン染め(水染め)も素晴らしい光沢がありますが、光沢の種類が違います。
下の二つ折り財布のように、アニリン染めはギラギラした色気のあるツヤがある光沢という感じです。
下の長財布は使用して9年目の新喜皮革✖️レーデルオガワのアニリン染めの同じこげ茶色の長財布です。
ギラギラとしたツヤが伝わりますでしょうか?
長年の使用で光沢とギラギラ感が増してきます。
人によって感じ方は違いますが、僕はホーウィン社のシェルコードバンは透明感があり、澄んだ水のような
光沢に感じます。
これからのエイジングが楽しみです。
なお、ここで使っている「ギラギラした」とか「透明感のある」とかの表現はレーデルオガワのHIDEKIさんの動画から引用した言葉です。
「コードバンのお手入れ方法」ついにファイナル!!水のように透き通るツヤの正体とケア方法を解説します!!
この動画はコードバン好きにとって非常に勉強になります。
③心地よい柔らかさ
ホーウィン社のシェルコードバンには独特の柔らかさがあり、
触っていて非常に心地よいのです。
GANZO製新喜皮革のコードバンと柔軟性を比較する動画を作りました。
まずは新喜皮革✖️レーデルオガワのアニリン染め(水染め)コードバン二つ折り財布から。
ホーウィン社のシェルコードバンの財布が初めから柔らかい理由は以下のとおりです。
- 革の内部に脂成分を多く含ませていて、そのため革が柔らかくしなやかになり、革の折る部分も割れにくく、耐久性が高い
- ホーウィン社の1905年からほとんど変わらない独自の製法が、柔らかさとツヤを実現
心地よい柔らかさを感じたいならキーケースがおすすめ
シェルコードバンの感触を最も感じることができる革小物はキーケースです。
その理由は、以下のとおりです。
- 毎日触らざるを得ないのがキーケース
- 手に馴染みやすいちょうど良い大きさ
1.毎日触らざるを得ないのがキーケース
キーケースは財布と違い、ほぼ毎日触れざるを得ない革小物です。
自宅のキーや車のキーなどを保管する役目のキーケースだからで、
僕の感覚では財布の20倍以上触れる回数が多いです。
革小物の中で最も身近なのがキーケースです
ですので、シェルコードバンの感触を楽しみたい方はキーケースが最適です。
ただ、キーケースといってもシェルコードバンのキーケースはかなり高額ですので(68,200円税込)
それだけの価値を感じる方だけにおすすめします。
よりリアルに質感を感じて欲しいので、ボタンフックを閉じる音など、音声はそのままにしてありますので、
ご注意ください。
GANZOのシェルコードバンは独自の基準で厳選
ホーウィン社は北米の老舗タンナーで、シェルコードバンはその最高級品です。
輸入した時点でコードバンの原皮が等級分けされており、
特にGANZO製のシェルコードバンの場合、GANZO独自の選択基準で原皮を厳選してます。
僕が所有するGANZOのシェルコードバンは、
すべて上の一級グレードよりも革質が上回っています。
ホーウィン社✖️GANZOという最強のコラボが初めから柔らかく、耐久性があり、美しい光沢を持った財布が作られているのです。
GANZOのシェルコードバン④古き良きアメリカがここにある
米国の革小物メーカーCraft and Lore を見てみる
シェルコードバンを手に取ってみると、古き良きアメリカを感じます。
それは、創業期からの伝統的な製造方法を守り続け、会社を大きくすることを最優先にしないホーウィン社の革へのこだわりがあるからです。
ホーウィン社は、創業者のイシドール・ホーウィンが1905年にシカゴで設立し、
1920年に現在の場所に移転しました。
上の写真はホーウィン社のHPからの引用ですが、左が移転20年後の1940年当時のホーウィン社の社屋で、右の写真が2016年のもの。
そして2024年5月現在も、同じ場所、同じ社屋、同じ製法で操業しています。
週に牛革を4,000枚、馬革を1,000枚くらいの生産量ですが、
鞣しから染色仕上げまでできるのは米国内では5社、シカゴではホーウィン社だけです。
ホーウィン社は伝統的なシェルコードバンの製造方法について、現社長であり創業者イシドール・ホーウィンの孫でもあるスキップ・ホーウィンさんは、
米国の革サイトのインタビューの中で「100年以上うまく機能してきたので、変更するつもりはありません。」とおっしゃっています。
ホーウィン社は、
今も創業当時からの製造方法でシェルコードバンを作り続け、古き良きアメリカの伝統を守り続けています。
⑤ひとつとして同じものがない強い個性
コードバンは材料が大型の食用馬という動物であるがゆえに、
フォーマットとして同じものがひとつとして存在しません。原材料から1つ1つが唯一無二の存在です。ホーウィン社のシェルコードバンはひとつとして同じものがない、自然のままの風合いを残した強い個性が魅力です。
味わいのある個性はホーウィン社のシェルコードバンの魅力です
同社のシェルコードバンはよく「ワイルドな仕上げ」と言われます。
実際のところ、新品のシェルコードバンには表面の加工前のシワやピンホールと呼ばれる毛穴が見かけられますので、
一見すると手抜きのようにも見えます。
しかし、僕の結論は、
「あえてそれらを目立たないようにする加工は最小限に抑え、できる限り自然の風合いを残している」です。
それにより、荒々しさはあるものの、素晴らしい質感と迫力のある革となっているのです。
これはホーウィン社と新喜皮革のコードバン鞣しに対する考え方の違いによるものですが、
僕はタンナーとしての考え方だけでなく、日本人とアメリカ人の国民性の違いも製品の仕上がりに影響していると考えています。
具体的には、上記の写真のピンホールなどは新喜皮革のコードバンではほぼ見かけることはありません。
これはホーウィン社が鞣しやその他の加工で手を抜いているのではなく、鞣しや加工に対する考え方の違いがカタチになって表現されたものなのです。
⑥シェルコードバン独特の香り
シェルコードバンには独特の香りがあります。
革製品にはそれぞれに香りがありますが、ホーウィン社のシェルコードバンには独特の心地よい香りがします。
シェルコードバンはアニリン染めよりも油脂を多く加える加工がされるので、香りがより強い傾向があり、その油脂の配合比率などは各社企業秘密になっています。
ホーウィン社の現社長アーノルド・スキップ・ホーウィン3世氏によると牛脂、魚油、パラフィン、蜜蝋などが配合されているのとことです。
youtube動画『How Is Shell Cordovan Made? Horween Leather Company Explains』より引用
これらの絶妙なブレンドがシェルコードバン独特の心地よい革の香りを生み出し、革好きを幸せな気分にします。
サイトではこの香りをお届けできないことが残念です。
常温で液体のものは油、固体のものは脂と称します
※「常温」の定義は規格や法律により違いますが日本産業規格では20℃±15℃(5~35℃)の範囲を指します
⑦シワになりにくく、型崩れしにくい強靭さ
シワになりにくく、乾燥に強い
コードバン自体が非常にシワがつきにくい革です。
牛革よりも明らかにシワがつきにくく、型崩れせず、時間とともに光沢が増してきます。
そのコードバンの中でも特にシワがつきにくいのがオイルコードバン。
ホーウィン社のシェルコードバンはそのオイルコードバンに分類されますので、油分がたっぷりと含まれており、
アニリン染めコードバンに比べてさらにシワになりにくく、乾燥に強い特性があります。
ですので、シェルコードバンはもともとオイル分がたっぷりと含まれているため、購入後1年間はクリームなどの栄養は不要です。
柔らかい布で乾拭きするだけで十分です。
逆に、購入直後や乾燥もしていない状態で水分の多いクリームを塗ると曇ってしまい、元に戻らないことがあります
ので、くれぐれもご注意ください。
シェルコードバンはシワがでない
他の革、特に牛革はコラーゲン繊維の構造上、どうしてもシワがでやすくなります。
しかし9年目になる僕の水染めコードバンの長財布でさえ、シワがほとんどありません。
水染コードバンよりさらに多くのオイルを含むシェルコードバンは、さらにシワが出にくくなります。
アニリン染めでこれだけシワがないのでホーウィン社のシェルコードバンはさらにシワになりにくいのが特長です。
ただし、財布の折り曲げ部分については革製品すべてにおいて最もシワや荒れが発生しやすい部分なので、シェルコードバンであろうと、購入から1年〜2年以上過ぎたら注意が必要です。
日常の折り曲げにより、コラーゲン繊維が開いて毛羽立ちやすく乾燥しやすいから
下の写真は9年目のアニリン染めコードバン長財布の折り曲げ部分ですが、
明らかに他の部分よりもシワがよっていますので、特に注意して多めにレーデルオガワのコードバン・ケア・ワックスを塗りこむようにしています。
折り曲げ部分は、物理的に他のものと接触する回数が多いので
痛みやすい部分なのです
ホーウィン社シェルコードバンはオイル分が多いため、購入後1〜2年くらいは、オイルやワックスや不要です。乾拭きのみで十分で、乾燥が気になり出したときから他のケアが必要になります
型崩れしにくい
型崩れしにくいコードバンは、牛革と比べて繊維密度が極めて高いのが特徴です。上の写真は10年使った牛革と9年目のコードバン(アニリン染め)です。
二つ折り財布と長財布の違いがありますが、牛革の二つ折り財布はカバンやお尻のポケットに入れてたそうです。
下の僕のコードバン財布(アニリン染め)は、ほとんどカバンか胸ポケットで、お尻のポケットには入れてませんでしたので単純には比較できませんがある程度の参考、目安にはなると思います。
ホーウィン社のシェルコードバンはオイルが多く柔軟性があるので、国産コードバン(アニリン染めなど)より型崩れしやすい可能性があります。
ただし、このシェルコードバン、国産コードバン、この2つの革をまったく同じ大きさ、厚さ、パーツなどにして同じ条件で使った場合、少し差が出る程度です。
極端な差はありません。
型崩れに対する強さは革の種類、厚さ、形(二つ折り、長財布など)、使い方(お尻ポケットに入れるなど)など、幾つもの条件で決まりますが、
コードバンは同じ条件なら最も流通している牛革よりはるかに強い耐久性を持っています。
⑧驚きの自己修復力
驚きの自然修復力がシェルコードバンにはあります。
公衆トイレで手を洗った時にナチュラルのシェルコードバンに水が付いてしまい、慌てて服で拭いたのですが、
その時にボタンにこすれてキズが付いてしまいましたが、ご覧のように10日後には少し自然に回復していました。
何もしていないのに、たった10日でここまで回復するとは思いませんでした
そして、そのまま使い込いこんで、約半年のキズの様子が下の画像です。
このように、シェルコードバンは浅いキズなら使い込むとこのように消えてしまいます。
生物のような自己修復能力があるのです。
ただし、深いキズは消えません
ただし、手に触れてわかるくらいダメージの大きいキズは、少しマシにはなりますが、
残念ながら、使い込んでも完全に消えることはありません。
キズはあまり気にし過ぎると、シェルコードバンを楽しめなくなりますが、ある程度は気をつけた方が良いでしょう
⑨革を育てる楽しさ
革を育てる楽しさはどの革にもありますが、コードバンは特にその楽しみが大きい革です。
そのコードバンの中でも、シェルコードバンはオイルを多く含むオイルコードバンに分類されますので、
色の経年変化がアニリン染めに比べて早いのが特徴です。
上の写真のシェルコードバンはナチュラルという色で、
染色がまったくされてませんので、最速でエイジングします
写真のように、ナチュラル(染色なし)やバーボン(薄い茶色)、緑などの明るい色は変化が早いという特徴があります。
ただし、
黒やこげ茶などの濃い色は、元の色が濃いため変化がわかりにくいというだけで、実際は同じスピードで変化しています。
⑩本物を所有する高揚感
本物を所有する高揚感と満足感を持ち主に与えてくれるのがホーウィン社のシェルコードバン製品です。
この感覚は実際に手にしてみないと実感できません。
冒頭でもお伝えしましたが、コードバン好きにとってホーウィン社のシェルコードバンは別格の存在ですが、
シェルコードバンは高額で、決して簡単に買えるものではありません。
しかし、誰もが一生懸命働いたら購入することができる、頑張れば手が届く憧れの品なのです。
ホーウィン社のシェルコードバンは伝統技術で6ヶ月以上もかけて作られた正真正銘の本物のコードバンです。
その「本物のコードバン」を日本の職人さんが高度な縫製技術などを総動員して、プライドを持って財布としての命を吹き込まれたのが日本製のシェルコードバン財布なのです。
GANZO製コードバン長財布を見てみる
ホーウィン社シェルコードバン財布のデメリット
ホーウィン社のシェルコードバンの素晴らしさについてお伝えしましたが、一方でデメリットもあります。
以下にまとめましたので、ご覧ください。
①価格が高い
②水弱く、油分を吸いやすい
③キズがつきやすい
④色落ちしやすい
⑤大手の革小物メーカーでも供給が不安定
では項目ごとに解説していきます。
①価格が高く、今後も確実に値上げ傾向
元来、コードバン自体が「革のダイヤモンド」と呼ばれるほど高級な革なのですが、コロナ禍前の2016年くらいから
いろんな理由で約30%以上の値上げがありました。
そもそも、コードバンの鞣される前の皮(毛や脂肪などがついたままで塩漬けにされた状態)はカナダ、スペイン、ポーランドなどから輸入されて、ホーウィン社のシェルコードバンは米国イリノイ州のシカゴで生産されているので日本に輸出されるまで2回も輸入しなければなりません。さらに革製品の関税率は約20%もあり価格に反映してしまいますが、
それ以外に
- 1905年から続く米国製ホーウィン社シェルコードバンのブランド力
- コードバン自体の生産量の減少
- コードバンが採れる主にヨーロッパ産の大型食用馬の小型化(大きくなりすぎると経済効率が悪くなる)
- アジアの新興国での需要が上昇
- 円安
- 世界的インフレ
- コードバンの原皮以外の値上げの影響(物流費、電気、他の材料費)
あらゆる要素を見ても価格は上昇傾向です
残念ながらあるメーカーさんによると
「今から(2023年現在から)5年後には長財布は20万円を超えるかもしれません」とのことでした。
②水、油分を吸いやすい
以前のブログでも紹介した画像ですが、たった1滴を30秒置いただけでうっすらとブクができています。
もっと長い時間放置するとさらにコラーゲン繊維が立ち上がり、水ぶくれのようになります。
すべてのコードバン自体が水や油、有機溶剤に弱いのですが、
シェルコードバン(シェルコードバンを含むオイルコードバンすべて)はコードバンの中でも最も水に弱く、注意が必要になります。
その理由は
- 表面をかばうものが何もない状態だから
- コラーゲン繊維の構造上、水や油を吸いやすいから
となります。
重要なポイントは、とにかく水や油(特に水)がついてしまったらできる限り早く拭き取ることです。
繰り返しますが、時間が過ぎれば過ぎるほどコラーゲン繊維が水を吸って立ち上がり始めます。
そして濡れたコラーゲン繊維だけが立ち上がり、ブクという水ぶくれになってしまいます。
③キズがつきやすい
シェルコードバンはアニリン染めや顔料染めのコードバンよりキズが付きやすいです。
シェルコードバンの表面は染色以外何も加工がされていませんので、コードバン層が剥き出しになっているため、
固く尖ったもので少し触れるだけでキズになります。
辛い実験でしたが、今後シェルコードバンの購入を検討されている方が参考にしていただければと思います。
まずは、
一番キズがつきやすいナチュラルから。
ナチュラルはまったく染色されていませんので、コードバン層が剥き出しになっています。
次にバーガンディーと呼ばれる色のシェルコードバン。
3番目は新喜皮革✖️レーデルオガワのアニリン染めです。シェルコードバンより少し強めにやりましたが、
まったくキズはつきません。
最後は最もキズに強い顔料染め(または塗料染めと呼ばれるランドセルに使われる染色方法)です。
まったくキズがつきません。
僕の経験上、注意すべきことをお伝えします。
- 自分の爪
- カバンやバッグから出し入れするときのファスナー
- アスファルトに落とす
- 角張った硬いものすべて
- ボールペンなどの筆記用具(カバンに入れて持ち歩くとき)とこすれる
ただし、シェルコードバンだけでなく革製品はキズがつくものですし、すでにお伝えしたように
小さなキズ程度なら日常の使用で、だんだんと目立ちにくくなりますので、
観賞用以外は水に濡れること以外は余り気にしないでガシガシ使うのが良いと思います。
④色落ちしやすい
写真は箱から出したばかりのシェルコードバンのバーガンディーをメガネ拭きで乾拭きしたのですが、この通りの色落ちです。
ただし、このレベルの色落ちは初めの乾拭きだけで、ずっと色が落ち続けるわけではありません
そして、物理的な摩擦以外に紫外線による変化も色落ちに繋がります。
アニリン染めに比べてシェルコードバンは表面を保護するものはまったくないので、より早く紫外線や摩擦による色落ち、色の変化が起こります。
⑤大手の革小物メーカーでも供給が不安定
大手の革小物メーカーでもシェルコードバン製品の供給が不安定な場合があります。
それは、各社の公式サイトを見れば、ホーウィン社のシェルコードバン製品が「品切れ」や「製造中」という記載が
されている場合が多いことから推測できます。
いくら日本のメーカーさんの技術が最高であっても、納得できる原皮がなければどうにもなりません。
原皮そのものは多くあるのですが、キズや焼印がない高品質のコードバン原皮をホーウィン社、日本の新喜皮革が
競合して取り合っている状態も原因の一つです。
コードバン層のあるお尻に焼印を入れてしまい、台無しになっている原皮もあるのです
供給が不安定なことは①の『価格が高い』にも関わってきます。
市場原理として、数が少ないものは高額になるのはすべてのものに共通するもの。
ホーウィン社のシェルコードバンはカナダ、フランスなどが原産国ですが
原材料の小型化や大型食用馬の減少などが原因により、鞣す前の皮自体が減少しています。
同社は1週間で約1,000枚の馬革が生産されますが、そのすべてがシェルコードバンだとしても、世界規模で考えると
決して生産量は多いとは言えません。
ホーウィン社のシェルコードバンは世界のブランドであり、大変人気があります。
今後も供給の不安定さと価格高騰はずっと続くと予想されます。
良い原皮が減少し、鞣しができる会社が世界にほぼ2つしかなく、需要の増加がコードバンの供給不安定の原因です
ホーウィン社シェルコードバンのお手入れについて
前半の記事でもお手入れについて触れましたが、重要なことなのでここで再度お伝えします。
シェルコードバンは購入後すぐにクリームやワックスは必要ありません。
半年から1年くらいは乾いた布(僕はメガネ拭きをつかってます)で乾拭きするだけで十分です。
特に絶対にやってはいけないことは以下のことです。
購入直後に水分を多く含んだクリームは絶対に塗らないでこと。シェルコードバンのツヤが消えてしまい、元に戻らなくなってしまいます。
ホーウィン社シェルコードバンと新喜皮革のコードバンは鞣し方法がちがいますので、ケアも違ってきます
下のリンクにGANZO公式サイトのシェルコードバンのお手入れ方法が詳しく紹介されていますので
ご参考にしてください。
まとめ
今回の記事は、ホーウィン社のシェルコードバン財布の魅力を9つにまとめてみました。
- コードバン好きをとりこにする独特の魅力
- 美しい光沢
- 心地よい柔らかさ
- 古き良きアメリカがここにある
- 同じものが2つとない独特の個性
- シェルコードバン独特の香り
- シワになりにくく、型崩れしにくい強靭さ
- 革を育てる楽しさ
- 本物を所有する高揚感
まだまだ他にもあると思いますが、
それはこれから3年、5年、10年後の楽しみとしておきたいと思います。
そして、新しい魅力を発見したら、随時この記事に加筆していく予定です。
シェルコードバンは一つ一つの製品が持つ個性、時間とともに変化するエイジング、持ち主の気持ちを高揚させる魅力があります。
財布としての機能はもちろん大切ですが(GANZO製なのでそこは間違いありません。)
ホーウィン社のシェルコードバン製品は財布としての機能以外に、様々な喜びを持ち主に与えてくれます。
この記事を読んでくださったコードバンが好きな方には、ぜひともこの高揚感、嬉しさを実際に手に取って感じていただきたい。
長い人生を一緒に歩き、かけがえのない相棒になってくれるホーウィン社のシェルコードバン。
僕はこの財布と過ごす日々は、
日常に彩りと高揚感をもたらしてくれることを確信しています。
コメント